
カラオケでマイクの持ち方を変えると、声の聞こえ方は実際に変わります。気分の問題ではなく、マイクという装置の物理的な性質によるものです。同じ人が同じ曲を歌っても、口との距離が数センチ違うだけで音量は変わりますし、握る場所を間違えれば音がこもったり、キーンという音が鳴り出したりもします。経験則で語られがちですが、理屈を知ると対処が早くなります。
マイクは全方向の音を拾っているわけではない
カラオケで使われる一般的なハンドマイクは、ダイナミックマイクと呼ばれる種類です。振動板が音の圧力で動き、その動きがコイルと磁石によって電気信号に変わる。電源が要らず大きな音にも強いため、不特定多数が使う店の設備に向いています。
このマイクには指向性という性質があります。どの方向の音をよく拾うかという偏りのことで、カラオケマイクの多くは単一指向性、特にカーディオイドと呼ばれる特性を持っています。カーディオイドはハート形の意味で、正面の音をよくとらえ、側面はやや弱く、真後ろはほとんど拾わないという感度の分布を指します。
この形を知っていれば、マイクをどこに向けるべきかは自動的に決まります。拾ってほしいのは自分の声だけなので、先端(グリルと呼ばれる金属の網の部分)を口に向ける。拾ってほしくないスピーカーは、マイクの後ろ側に置く。この二つだけで声は通りやすくなります。胸の前にマイクを立てて歌うと声は真上を通過するので、音量不足の原因の大半はこの角度にあります。
距離が音量を決め、近さが低音を増やす
音の強さは音源から離れるほど弱くなります。点音源なら距離が二倍で音圧は半分、エネルギーでは四分の一。逆二乗の法則です。室内では反射があるので単純ではありませんが、口とマイクの距離が音量を決める関係は変わりません。声量のある人は少し離し、声が細い人は近づける。ミキサーのつまみを回すより先に、持ち方で調整できることは多いのです。
もうひとつ、近接効果という現象があります。単一指向性のマイクに口を近づけると、低い周波数だけが持ち上がる。アナウンサーや歌い手がわざと寄って厚みのある声を作るのは、この効果です。使いすぎると声がもたつき、こもった印象になります。サビでぐっと寄る程度の使い分けで十分です。逆に離しすぎると、自分の声に対して伴奏や周囲の音の割合が相対的に増えます。声だけが埋もれて聞こえるときは、たいてい距離の問題です。
網を包むと音がこもる
握る場所は本体のボディ部分です。金属の網をてのひらで包み込む持ち方は、音の面では損が大きくなります。
理由は二つあります。ひとつは、網の内部に音を整えるための空間や穴が設けられていること。単一指向性は、振動板の背面にも音を回り込ませて前後の差を利用することで成り立っています。その通り道を手でふさぐと指向性が崩れ、全方向の音を拾う状態に近づく。結果として声はこもり、周囲の音は入りやすくなります。
もうひとつは、手が共鳴の箱になってしまうこと。包んだてのひらの中で特定の高さの音が強まり、音質が不自然に変わります。本人には聞こえにくく、スピーカーからだけ変化が出るので、指摘されるまで気づきにくい持ち方です。
目安は本体の真ん中あたりを持ち、角度は口に対してまっすぐか、やや斜め下から。息が直接当たると破裂音でボッという雑音が出るので、真正面から少しずらすと落ち着きます。
ハウリングはマイクとスピーカーの循環で起きる
キーンという高い音、あるいはボーという低いうなり。あれは音が輪になって回り続けることで起きます。マイクが拾った音がスピーカーから出て、その音をまたマイクが拾い、増幅されてまた出る。一周するたびに音が大きくなる条件がそろうと、特定の周波数だけが際限なく育っていきます。
対策はこの輪を弱めることに尽きます。マイクをスピーカーに向けない。スピーカーの正面に立たない。距離を取る。音量を下げる。歌っていないときはマイクを下ろす。
置いたまま放置したマイクが鳴り出すのは、指向性の弱い向きにスピーカーが入り込むからです。テーブルに直置きすると卓面の反射も加わって鳴りやすくなります。使わないときはホルダーに戻す。網を包む持ち方がハウリングの起点になりやすいのも同じ理屈で、音がこもる話とハウリングの話は原因を共有しています。
カウンターだけの小さな店では、マイクとスピーカーの距離がもともと近くなります。当店は八席のカウンターだけなので、スピーカーに背を向けて歌うくらいでちょうどよい距離感になります。
渡すときの所作にも理由がある
歌い終えたマイクを次の人に渡すとき、網を相手に向けて差し出すと、受け取る側は網を握ることになります。本体の下の方を相手に向けて渡せば、そのまま正しい位置を握れる。刃物を渡すときに柄を向けるのと同じ発想です。
マイクを叩いて確認する動作も避けたい所作です。振動板に直接衝撃が伝わるため、機器にはよくありません。音が出ているかは小声で話せば分かります。ワイヤレスでなければケーブルの扱いも渡す側の仕事で、断線はプラグの付け根で起きやすく、強く引っ張ればその分だけ寿命が縮みます。
こうした所作はカラオケのマナーとして語られるものと重なりますが、元をたどれば機器の構造から来た理由があります。当店のカラオケは1曲200円で、順番に回して歌う形です。ひとりでの過ごし方として、歌わずに聴くだけでも構いません。
持ち方は上手さとは別の話です。声が届くかどうかという、装置の側の条件を整える作業にすぎません。整えたうえで何を歌うかは、また別の楽しみになります。
なお、当店は喫煙目的店のため、20歳未満の方はご入店いただけません。
よくあるご質問
マイクは口からどのくらい離すのがよいですか
距離が音量を決めます。声量のある方は少し離し、声が通りにくい方は近づけると調整できます。近づけすぎると低音が持ち上がってこもった印象になります。
マイクの音が拾われにくいのはなぜですか
先端が口を向いていないことが多い原因です。カラオケマイクは正面の音をよく拾う単一指向性なので、グリルを口に向けてください。網を手で包むのも音がこもる原因になります。
ハウリングを防ぐにはどうすればよいですか
マイクをスピーカーに向けない、正面に立たない、距離を取る、音量を下げる、歌わないときは下ろす。この五つで音が循環する輪が弱まります。
マイクを次の人に渡すときの向きは
本体の下側を相手に向けて渡すと、受け取る側がそのまま正しい位置を握れます。網を向けて渡すと網を握らせることになります。
関連するコラム
- カラオケスナックのカラオケマナー - 順番・選曲・音量・みんなで楽しむコツスナックのカラオケは、個室カラオケと違って店内の全員で共有するものです。順番の回し方、選曲の考え方、マイクの持ち方、他のお客様が歌っているときの過ごし方など、一般的なマナーを整理しました。西荻窪のスナック ジュゴンではカラオケ1曲200円で楽しめます。
- カラオケカラオケ - スナックの主要なエンターテインメントスナックのカラオケは、個室のカラオケボックスとは役割も作法も違います。飲食店に広まった歴史、聴き手がいることの意味、個室との違い、歌が苦手な人の過ごし方まで、スナックでカラオケが果たす役割を整理しました。
- カラオケスナックでよく歌われる曲の条件 - 場が温まる選曲の考え方スナックで長く歌い継がれてきた曲には、知名度・長さ・歌詞・一緒に口ずさめる余地という共通点があります。カラオケがスナックから広まった経緯と「カラオケ王」の役割、初めての一曲の選び方までをまとめました。
- カラオケスナックの音楽、時代を感じるメロディスナックに流れる音楽はなぜ時代を感じさせるのか。曲がBGMではなくカラオケで歌われた記憶の集積であること、1970年代に業務用機器として店に入ったカラオケの歴史、場が温まる曲の条件、そして歌わずに聴くだけの過ごし方まで解説します。
監修: スナック ジュゴン公開

