
スナックに何度か通ううちに「常連」と呼ばれる関係が生まれます。ただ、この言葉は通った回数で決まるものだと思われがちですが、実際は少し違います。ここでは、常連と呼ばれる状態にどう近づくかを順に整理します。
そもそも「常連」とは何を指すのか
一般に、飲食店で常連という言葉が使われるとき、二つの意味が混ざっています。ひとつは来店回数の多さ。もうひとつは、店の運び方に慣れていて、説明なしに注文や会計が済む状態です。スナックで語られるのは後者です。
カウンター中心の小さな店では、客ひとりの振る舞いが部屋全体の雰囲気を左右します。だから店側は「たくさん来る人」よりも「その場を心地よくしてくれる人」を頼りにします。常連とは、売上への貢献より先に、場に対する信頼の呼び名だと考えたほうが実情に近いはずです。裏を返せば、月に一度しか来なくても常連として扱われる人はいますし、毎週来ていても距離が縮まらない人もいます。回数は結果であって条件ではありません。
1. 入店と退店の挨拶を丁寧にする
礼儀はどんな場所でも大切ですが、スナックで特に効くのは入店と退店の瞬間です。扉を開けたとき、店側は一瞬でその人の様子を見ています。ここで一言「こんばんは」があると、店は迎え方を決めやすくなります。逆に無言で座られると、声をかけていいのか、そっとしておくべきなのか、測りかねます。帰るときも同じで、「ごちそうさま」「また来ます」の一言があるかどうかで、次に扉が開いたときの記憶の残り方が変わります。長く喋る必要はありません。最初と最後の二回だけきちんと声を出す。最初の一歩に不安がある方はスナックの扉の開け方も参考にしてください。
2. 頻度よりも、間隔の一定さ
定期的に訪れることは有効ですが、大切なのは頻度そのものではなく、ある程度の規則性です。同じ曜日、同じくらいの時間帯に顔を出していると、店はその時間帯にその人を予期するようになります。人の記憶は文脈と結びついて残るので、「金曜の早い時間の人」という枠ができると名前を覚えるのも早くなります。一度間が空いたからといって行きづらく考える必要もありません。数か月ぶりでも「久しぶりです」と言って座れば話は再開します。スナックはもともと、出入りの緩さで成り立ってきた業態です。
3. 店の運び方に逆らわない
スナックには、それぞれの店の運び方があります。会計の方法、カラオケの回し方、持ち込みの可否、閉店の合図。明文化されていないものも多いので、初回は観察するのが確実です。たとえばカラオケは、多くのスナックで「歌いたい人が歌う」よりも「順番に回す」形が取られます。曲を入れたら次は誰かに譲る、という呼吸が保たれている店ほど、全体として長く歌えます。当店の考え方はカラオケの楽しみ方にまとめました。こうした暗黙のルールは意地悪で存在しているのではなく、狭い空間を複数人で共有するための最小限の取り決めです。詳しくはスナックの隠れたルールとエチケットでも触れています。
4. 会話は「量」より「間」を意識する
店の人との会話は常連への近道のように語られますが、たくさん喋れば近づくというものでもありません。カウンターの店では、店側は同時に複数の席を見ています。グラスの残り、氷の減り、灰皿、次に入る曲。そこに長い話が一方向から続くと全体の運行が滞ります。話しかけるなら、注文のとき、飲み物が出てきたとき、会計のとき。自然な切れ目を使えば、会話は短くても密度が上がります。
もうひとつ有効なのは、聞く側に回ることです。カウンターの会話は、喋る人と同じくらい、聞いている人の存在で成り立っています。話題に困ったら、その日の天気、西荻窪の街の変化、飲んでいる酒の産地あたりが無難です。
5. 酒の選び方を持っておく
常連らしさが自然に出るのは、実は注文の場面です。毎回「おまかせで」でも構いませんが、「今日は焼酎の水割りで」と自分の型を持っている人は、店から見て段取りが立てやすい客です。注文の言い方が決まっていると、伝えるのも受けるのも短く済みます。これが「説明なしに注文が通る」状態の入り口です。
型といっても難しいものではなく、二、三の選択肢があれば十分です。同じ焼酎でも水割り、お湯割り、ロックで表情が変わります。焼酎の楽しみ方やドリンクを眺めておくと、選ぶ楽しみが増えます。ボトルキープも常連の象徴のように語られますが必須ではなく、毎回グラスで頼むほうが気楽な人もいます。
6. 他の客との距離の取り方
スナックのカウンターは、話しかけてもよい場所ではありますが、話しかけなければならない場所ではありません。相手が会話に集中しているときや一人で過ごしたい様子のときは、無理に入っていく必要はない。逆に話を振られたら短く応じる。それだけで交流は成立します。年齢も職業もばらばらな人が並ぶのがこの業態の面白いところで、深く踏み込まないからこそ続く関係もあります。ひとりで来た日の過ごし方はひとりで来るにも書いています。
常連になると、何が変わるのか
通い慣れて変わるのは待遇ではなく、負担の少なさです。料金の見当がつく、席の様子が分かる、注文の言い方が決まっている。こうした細かい省略が積み重なると、飲みに行くという行為そのものが軽くなります。仕事帰りに寄る場所として機能しはじめるのは、だいたいこのあたりからです。
スナックは高度経済成長期以降、地域の社交場として広がってきた業態です。深夜まで酒を出す店には規制があり、その枠の中でカウンター越しに会話し、カラオケを歌う形が定着しました。地縁でも職場でもない第三の居場所として使われてきた背景が、常連という言葉の温度に残っています。
ジュゴンの場合
当店は西荻窪駅から徒歩1分、地下1階。青い電飾看板を目印に階段を下りると扉があります。カウンターは8席のみで、開けた瞬間に部屋の端まで見渡せます。白い石目のカウンター、青い波模様の壁、水色・白・薄紫の椅子。海をテーマにした内装で、地下ですが明るい部屋です。
席数はカウンター8席のみで、特別な手続きも、常連としての登録もありません。お会計もご案内も、来店回数で変わりません。チャージは1名4,000円で時間無制限、カラオケは1曲200円、営業は21:00からラストまでで水曜が定休です。場所はアクセス、店の考え方はコンセプトに書いています。
常連になろうと意識しなくても、氷の音と青く光るボトル棚のある部屋が自分に合えば、足は自然に向きます。まずは一度、階段を下りてみてください。
なお、当店は喫煙目的店のため、20歳未満の方はご入店いただけません。
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監修: スナック ジュゴン公開 / 更新

